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大阪高等裁判所 昭和37年(く)87号 決定

少年 K(昭一七・一二・一〇生)

主文

原決定を取り消す。

本件を神戸家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の理由は、本件少年保護事件記録に編綴の少年本人の提出に係る抗告申立書記載のとおりである。

よつて原決定を検討するに、少年審判規則第三六条は罪を犯した少年の事件について保護処分の決定をする場合決定書に罪となるべき事実の記載を要求している。この場合右罪となるべき事実を記載するには検察官、司法警察員等の事件送致書の審判に付すべき事由等の記載を引用することは許されるけれども、右規定の設けられている理由は、罪を犯した少年に対して保護処分がなされたときは、審判を経た事件について一事不再理の効力が認められ、しかもその効力は決定書に記載された事実にのみ及ぶものであるから(少年法第四六条)、いかなる事実について保護処分を受けたものであるかを決定書において明確にせんがためである。そうしてみると、決定書に記載する罪となるべき事実は少なくとも、これを特定し得るように記載しなければならないものといわなければならない。

ところで原決定書をみると、非行事実として少年は昭和三七年七月一八日頃から同年八月六日頃までの間に五回にわたり神戸市生田区○○×丁目外一カ所において、旅館業○木○み外一名所有のラジオ計三台、扇風機計三台(それらの時価計二万九千円余)を盗み取つたものであつて、刑法第二三五条に該るものであると記載している。しかも本件記録を検討すると検察官送致に係る本件五回の窃盗はそれぞれ別個の犯罪であつて、明らかに併合罪の関係にあるものと認められ、全部が包括一罪の関係にあるものとは到底認められない。従つて原決定のような記録のしかたでは罪となるべき事実を特定して示したものとはいえない。原決定はこの点において法令の違反があり右法令の違反は決定に影響を及ぼすこと明らかであるから少年本人の抗告趣意に対する判断を省略して、原決定を取消し本件を原裁判所に差戻すこととする。

よつて少年法第三三条第二項に則り主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 奥戸新三 裁判官 竹沢喜代治 裁判官 野間礼二)

別紙一

原審の決定(神戸家裁 昭三七・九・一二決定)

参照 少年法第二四条第一項第三号

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

非行事実及び適用法令

少年は、昭和三七年七月一八日頃から同年八月六日頃までの間に五回にわたり神戸市生田区○○×丁目外一カ所において、旅館業○木○み他一名所有のラジオ計三台、扇風機計三台(それらの時価計二九、〇〇〇円余)を盗み取つたものであつて、刑法第二三五条に該るものである。

処遇意見

添付の本件社会記録をここに引用する。但し、下記のとおり一部補正するものとする。

特に少年が意志の弱い、気が弱い、性格のもろいなどの欠点が社会適応上の支障となり離職してぶらぶらしているうち実弟の関係もあつて一時やくざと交友していたもので、その頃本件非行を犯すに至つたものである。それ故少年に自主性、自律性を持たせる外確かな生活目標、従つて職業などを持たせるよう矯正教育をするの要があり、それには特別少年院に送致するのが相当であると考えられる。

よつて、少年法第二四条一項三号、少年審判規則第三七条一項に則り主文のとおり決定をする。(裁判官 太田元)

別紙二

抗告審における取消差戻後の決定(神戸家裁 昭三七・一一・九決定)

参照 少年法第二〇条

主文

この事件を神戸地方検察庁の検察官に送致する。

理由

一、罪となるべき事実

検察官事件送致書記載の審判に付すべき事由。

一、罰条

刑法二三五条

一、送致の理由

罪質及び情状に照し、刑事処分を相当と認めたるによる。(裁判官 三輪勝郎)

別紙三

犯罪一覧表

一、犯罪総件数 窃盗 五件

内訳  扇風機 三台

ラジオ 三台

二、被害見積総額 金二万九千円

内訳  扇風機 三台

ラジオ 三台

三、発見見積総額 金二万九千円

内訳  扇風機 三台

ラジオ 三台

四、未発見見積総額 金

内訳

進行

番号

被疑者名

罪別

犯罪年月日時

及場所

被害者

住所氏名

被害金品

犯罪事実の概要

賍金品の処分

品目員数

金額

窃盗

昭和三七年八月四日午前九時頃

神戸市生田区△△×丁目○○荘

旅館業

○芳○

三九歳

扇風機

一台

三、〇〇〇

前夜から同旅館に宿泊して朝従業員が寝ている間に他の部屋を物色して一五号室から窃取して同旅館より持出したもの

同日

神戸市生田原○○×丁目

△△質店

(○島○ 二二歳)

に一金一、一〇〇円にて入質、生活費に費消

右同

窃盗

昭和三七年八月六日午前一〇時頃

右同

扇風機

二台

一〇、〇〇〇

前夜から同旅館に宿泊して朝従業員が寝ている間に三階の客室をそれぞれ物色して部屋の畳の間の隅にあつたものを窃取して同旅館より持出したもの

同日前記

△△質店に一金二、三〇〇円に入質して生活費や飲食費に費消した

右同

窃盗

昭和三七年七月一八日午前九時頃

神戸市生田区○○×丁目

旅館業

○本○の五二歳

ラジオ

一台

五、〇〇〇

施錠してない玄関から侵入して空室を物色して二階二五号室より窃取して侵入口より逃走した

同日前記

△△質店に一金二、五〇〇円に入質して生活費や飲食費に費消した

右同

窃盗

昭和三七年七月二四日午前一〇時頃

右同

ラジオ

一台

五、〇〇〇

施錠してない玄関出入口より侵入して空室を物色して一階一一号室から窃取して侵入口より逃走したもの

同日前記

△△質店に一金二、〇〇〇円に入質して生活費飲食費に費消した

右同

窃盗

昭和三七年八月一日午前一〇時頃

右同

ラジオ

一台

六、〇〇〇

施錠のない玄関出入口から侵入して空室を物色して二階二五号室より窃取して侵入口より逃走したるもの

同日前記

△△質店に一金二、五〇〇円に入質して生活費、飲食費に費消した

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